地方民にとって、地元の本屋とは何があっても死守しなければいけない場所である。
大きな書店がいくつもある都会と違って、地方の本屋は店舗数が少ないし、
売り場も小さい。
だが、小さな本屋は地方民にとって読書のライフラインなのだ。
売り場面積が小さい代わりに、その本屋のイチオシ本や今売れている本がぎゅっと厳選されている。たまに発掘本も見つけられるので、地方に住んでいる私などは目をかっぴらいて平台と棚の本を凝視する。
本書に登場する「小林書店」も大阪の尾崎市にある、小さな小さな本屋だ。
そこへ主人公、大森理香は会社の上司に連れられてやってくる。
理香は出版取次の会社に就職した新社会人。東京生まれ、東京育ちの彼女が慣れない大阪支社へと配属になり最初は仕事も上手くいかないのだが、「小林書店」の店主、由美子さんが語ってくれる八つのエピソードからヒントを得て、
私、大森理香は、仕事で大切なことはすべて小林書店から学びました。
と言えるほどまで成長していく。
「小林書店」も由美子さんも実在しており、本書は理香を主人公とした小説パートと由美子さんの語るノンフィクションパートで構成されている。話の流れを切ることなく、小説パートとノンフィションパートが自然に繋がっているのが読んでいて
心地よかった。
本書は、今すぐ仕事に実践できるハウツー小説というよりも仕事に対しての、誠実な姿勢、周囲へ感謝する心、人との繋がりの温かさを学べる。
決して難しい内容ではないので数年後に社会へ飛び立つ中学生や高校生にも、ぜひとも読んで欲しい本だ。
ところで、小林書店では本以外に「あの傘あります」とキャッチコピーを掲げて、
たくさんの傘が売られている。
何故、本屋で傘を売っているのか。その答えは『仕事で大切なことはすべて尾崎の小さな本屋で学んだ』の中で語られている。
読了後、きっと地元の本屋が愛おしくてたまらなくなるだろう。