河出書房新社から発売されている『スピン 2号』(330円/税込み)に掲載されている声優・斉藤壮馬さんの短編小説『月の眼の縁』は、自分に自信のない臆病な少女の視点で描かれている。
彼女――ユーリには、「えみちゃん」という親友がいる。えみちゃんは、ユーリとは真逆な、すごく可愛くて文武両道なみんなの人気者。ユーリは、「えみちゃんの隣に立つ」ことを不相応と思いながらも、「えみちゃんの親友」というポジションを誰にも譲りたくないと日々葛藤している。そんな、彼女に、えみちゃんはいつも笑顔で「大丈夫」と伝えてくれる。
だが、二学期のはじめにユーリたちのクラスに臨時の担任として、佐久間という容姿端麗な男性教諭が現れたことにより、ユーリとえみちゃんの関係は変化していくことになる。
この小説で描かれている、主人公ユーリの気持ちは、思春期特有の友情と恋情の狭間にあり、ひとつの「百合小説(女の子同士の恋愛)」としても楽しめる。
実際、私も終盤まで百合小説として読んでいた。だが、最後まで読了後してみると、著者の斉藤壮馬さんが描きたかったのは「内気な少女の友情と恋物語」だけではないように感じた。
もっとゴシックで、儚くて、眩いほどの羨望。
そんなキーワードが頭に浮かんだ。
「きっとこうなるんだろうな」と油断していると「あっ!」と不意をつかれる作品だった。
物語の構成は、現在と、過去のえみちゃんとの思い出を行ったり来たりするが、読みにくさはない。むしろ、過去のパートがあることで物語に切ない月光が降り注ぐ。
そして少女は最期の時まで、その切ない月光に照らされ続ける。
この短編は、
・百合小説が好き
・幻想的なお話が好き
・ほんのり切ない気持ちになる結末が好き
な方におすすめです。